vol.3 西村卓「HACO」
2022年10月8日 – 2023年3月25日
西村卓は、主に木を素材にとって、さまざまな形体の作品を展開しています。
積み木のようなカラフルな木のブロックが組み上げられてできた作品《DREAMS -円環-》は、そのスケールから本展の中心的な役割を果たします。背景に置かれたフレーム状の作品が家の形をしていることもあり、立方体のブロックが並ぶ姿は、ビル群のような街の風景を想起させるかもしれません。すると円型を描く全体もまた、都市や国の輪郭、あるいは地球の比喩であるようにも見えてきます。作品は一見抽象的ですが、ひとつひとつのブロックが小さな個として組み合わされ、部分の集積で大きな全体を形作るこの構造が、具象的なイメージを重ね合わさせてくれるのです。
二面ある展示の反対側には、そういった読解しやすい象徴性のない、より抽象的な作品が並んでいます。絵画のように壁付けにされた作品は、丸、四角、三角、と図形的な輪郭を持っています。著名な禅画に「○△□図」(仙厓筆)という、墨でそれらの図形を描いただけの、それこそ禅問答のような作品がありますが、距離を取って眺めるとそれに近い軽妙な謎めきを感じられるかもしれません。
また、近づいて見れば、今度は表面の凹凸に豊かな表情を読み取ることができます。「埋める」シリーズとして複数展開されている本作品群は、木材に溝を彫り込み、その上に色を付けた樹脂等をかけ、乾いたところでまた彫ったり削ったりと手を加える、という工程で制作されています。多くの手数が生々しく残る表面は、その過程を知らずとも(むしろ知らない人にこそ)、どのように作られたかをいやが応にも想像させる情報量を持っています。一度目に彫られた溝と、二度目に彫られた溝が、樹脂等の削られ具合を仔細に観察すれば判別できる、という絶妙な加減が、初見でも違和感として感知されるのです。時間の厚みが巧妙に造形化されているとも言えるでしょう。
西村の作品はさまざまな形体を取りますが、木材を加工する技術が自在に組み合わされ、その構造によって主題を浮かび上がらせています。「HACO」という展示タイトルは、トラックの荷台を箱に喩えたものですが、このようにひとつのパッケージにラッピングされることでより一層、その作家性を読み取ることが可能になっています。
文・上久保直紀
西村卓 NISHIMURA Taku
1990 | 岐阜県生まれ |
2014 | 多摩美術大学 美術学部彫刻学科 卒業 |
2016 | 多摩美術大学大学院 美術研究科博士前期課程 彫刻専攻 修了 |
主な個展 | |
2017 | 「新世代への視点 西村卓展 −ここ−」ギャラリィK(東京) |
2018 | 「拡張都市」銀座蔦屋書店(東京) |
2021 | 「埋める / 埋もれる」Hasu no hana(東京) |
主なグループ展 | |
2021 | 「カレミズガタ」art&clothes marco(大阪) |
2021 | 「PLY#1 憑依する作法」小金井アートスポットシャトー2F(東京) |
2022 | 「いとまの方法:杉並学園アートプロジェクト」児童養護施設杉並学園(東京) |
ワークショップ
記録写真
日時 | 2023年2月23日(木・祝)10:00-15:00 |
会場 | ひらしん平塚文化芸術ホール(平塚市見附町16-1) |
概要 | 平塚商工会議所「ひらつか産業FES」 https://hiratuka-cci.or.jp/fes/ |