vol.1 泉里歩「眺める色彩のダンス」
2021年7月14日 – 2022年1月16日
泉里歩が描くのは、人物が交錯する、どこか演劇的にも見える一場面です。
しかしその具象性や構図にもかかわらず、作品から感じられるのはモチーフから想起させられる物語というよりも、絵を描く行為そのもののよろこびのようです。それはモチーフが判然としないほどにまで解体され、逆に絵の具の重なり具合や筆の跡といった行為の痕跡が前景化しているためでしょう。
《眺める色彩のダンス-No1-》において、描かれているのが人物であるとわかるのは、浮かんでいるようにも見える頭髪と、わずかに残る目鼻や輪郭線の描写によります。皮膚や衣服の表面では遊動する筆致によって写実的な質感表現が退けられており、背景と同化している箇所すら見受けられます。
原型が保たれている箇所(髪など)とそれ以外(皮膚の表面など)との間にある筆致の差は、画面に独特のリズムを与えていますが、この差が生まれる原因に着目すると、作品に「描く行為そのもののよろこび」を感じ取れる次の理由も考察できます。
たとえば、もっとも具象性を色濃く残す頭髪は、毛の流れを表現する長いストロークの流線で成り立っています。言い換えれば、頭髪の描写には、それ自体に筆をスウィングさせる身体的な快が宿っていると言えます。そのような快が塗り込められた部分は原型が温存され、対して皮膚のようななだらかな表面では対象再現性が放棄され、別様の筆跡で埋め尽くされている。つまり筆致の差は、そもそもその部分を描いたときに快があったかどうかの判断によって生じているように感じられるのです。
制作過程で下されたこの判断を嗅ぎとるとき、私たちは泉の絵画に、筆をひたすらに動かす描画行為そのものへの偏愛を読み取るのかもしれません。
文・上久保直紀
泉里歩 IZUMI Riho
1995 | 千葉県生まれ |
2018 | 武蔵野美術大学 造形学部油絵学科油絵専攻 卒業 |
2020 | 武蔵野美術大学大学院 造形研究科美術専攻油絵コース 修士課程修了 |
主なグループ展 | |
2020 | 「調布・巡る・アートプロジェクト」調布市グリーンホール(東京) |
賞歴 | |
2018 | 第7回「ドローイングとは何か」展 入賞 |
2018 | Tokyo Midtown Award2018 優秀賞受賞 |
2020 | 明日を開く絵画 第38回 上野の森美術館大賞展 賞候補入選 |
2021 | 第3回 公募アートハウスおやべ現代造形展 入選 |