vol.2 堀江和真「こんにゃく」
2022年3月20日 – 2022年9月12日
堀江和真は絵画というメディアについて思考を巡らせ、その洞察のもとに作品を制作しています。
思考と考察の跡は、作品の表面にも多分に表れています。たとえば、一見親しみやすい、子どものらくがきを思わせるキッチュな図像が描かれた絵画の画面上にも、その作品の制作にあたった日時がメモされているのが目に入ります。《3》というタイトルが付けられた、カエルのようなキャラクターが三体並んで描かれた作品の画面下部に見られる「2020 12.8 7:36-7:47」というような記述がそれにあたります。
なぜ画面上にこのような情報が挿入されているのか――複数のシリーズで見られるこの試みは、絵画の平面上にメタな時間性を加え、奥行きを与える実践と解釈できます。鑑賞者の目を、なにが描かれているかという画面内への関心に留まらせず、それが制作されるまでの過程、描画行為とそれに費やされた時間という作品の外部にまで向けさせるのです。絵画も単に、人が生活の中で時間をつくって手を入れ、完成に近づけていく「モノ」なのだと、その即物性を示しているかのようです。
また本展では《サンドイッチマンスタイルの展示方法》という題の、絵画作品と立体造形物を組み合わせた新作が出展されています。作家自身のスキャンデータから出力された等身大の人体模型に二点の絵画が提げられた作品で、掛けられた絵画は、身体を挟むように前面と背面に配置されています。
この作品では、絵画が作家の身体の模型と結びつけられ展示されることで、より明示的に、絵画が身体的な描画行為の集積として現前するのだという即物的な一面が強調されています。体の大きさや腕の長さといった身体の有限性が、絵画の大きさや筆触の方向といった造形要素をも規定しているのだ、という事実にも気づかせるでしょう。さらに言えば、3Dプリンターによって出力された人体模型自体も、積層によって形づくられた痕跡を表面にありありと残し、本作が時間/行為の堆積として成立していることを示唆しています。
また人体型の造形物は、作家と作品の結びつきを想起させる装置としてのみ機能するのでなく、作家と作品とその受容者(鑑賞者)との関係にも言及しているようです。サンドイッチマンと呼ばれる、宣伝用の看板を取り付けられた人間広告塔を模した佇まいは、絵画の持つ「額装され壁に掛けられることで立派に見える」という身も蓋もない権威性を無化し、作品受容とコマーシャリズム、労働者としての作家像、アートの産業構造についての思考を誘うフックにもなっています。
堀江の作品は、その表層的な可愛らしさで、かようにも重層的な造りを包み込んでいるのです。
文・上久保直紀
堀江和真 HORIE Kazuma
1981 | 東京都生まれ |
2004 | 桜美林大学文学部 卒業 |
主な個展 | |
2017 | 「「重ねること」と「置くこと」」アートラボはしもと(神奈川) |
2019 | 「部屋」LAUNCH PAD GALLERY (神奈川) |
2021 | 「ザ.スランプペインティング」studio HIVE (東京) |
主なグループ展 | |
2018 | 「ギフトショー」アーツ千代田 3331(東京) |
2019 | 「ラボラトリー・オブ・フォレストアート」森Lab(神奈川) |
2020 | 「矢中の杜展覧会」矢中の杜(茨城) |
2020 | 「はじめてかもしれない展」アーツ千代田 3331(東京) |
2020 | 「ゆたかないばしょ Nitehi works 10th Anniversary Exhibition 」似て非works末吉町(神奈川) |